電子書籍に対して、紙の本の魅力を語る人は数多い。「その風合い、物質としての質感。本は表紙やカバーも含めた総合芸術だ」と。ところが、この同じ言葉を、私は『活字が消えた日』にも聞いた。「若旦那、あなたのところが活字をやめるなんてそんなもったいない。活字の風合い、力強い印字、長年の歴史による総合芸術をどうして捨てようとするのだ」。
だが、活字が電子組版になりやがてDTPとなって、みながその印字に慣れたとき、誰も活版のことなど思い出してくれなかった。たまに「活版で」という注文があったとしても「値段がずっと高くなる」ことを告げると、誰も発注などしてくれなかった。今、活版がなくても誰も困らない。美術工芸品としての需要がわずかにあるが、それは産業ではない。